吸い込みバイトと噛みつきバイト

生態・形態

という言葉を昨今チニングシーンで目にしますが、それについての私の認識を書きたいと思います。

そもそも、それぞれ全く別の独立した動作

私は、少なくともクロダイの摂餌においては、どんな状況でも吸い込みの過程は必ず存在すると考えています。吸い込みバイトと噛みつきバイトという二者択一の分類方法が、そもそも状況説明をする上で無理があると考えています。

喉奥の構造

魚の喉奥には口弁(こうべん)という器官があります。

手描きのクエです笑

水族館なんかで大きい魚を見ているとよくわかるのですが、喉の奥で、呼吸のリズムに合わせて上下している白い膜のような構造物を見たことはありませんか?(ベロじゃないよ。)

読んで字の如く弁であり、これを開閉して、エラに新鮮な水を送ったり、目の前の獲物を一気に吸い込んだりします。そして、この器官の発達度合は魚によって異なります。シーバスやハタのような、口が大きく開いて前方に突出する『吸い込み&丸呑み系』の肉食魚は、吸い込み時に強力な負圧を作り出すことが出来ます。厳密に言えば、頬を左右に広げて、口の中に負圧を作る筋肉もめちゃくちゃ発達しています。そういった魚に対し、チヌの負圧はどうかというと、いたって普通くらいという印象です。

対して、噛みつきのパワーに関与するのは咬合の筋力であり、チヌはかなりのパワーを持っている事については有名かと思います。結局のところ、それぞれ完全に独立した器官と動作です。

甲長7mmほどの小さい幼ガニであればフッと吸い込んで終わりでしょうし、食べ応えのある大きなモクズガニのような獲物であれば、バリっと噛み砕いて、周囲にフワ~ンと散った破片や、自切した脚なんかを即座に吸い込んで回収するでしょう。付着藻類をこそげ取るのであれば、3~4噛みくらいして、剥がれた藻類が溜まったら飲み込む、の繰り返し…といったように、完全に独立した別々の動作だと思います。

常にフルパワーで噛んでいません

また、チヌは強力な咬合筋を持っていながら、常にリグをフルパワーで噛む訳ではありません腑抜けた口の閉め方でバイトを終える事も多々あります。バイトの前から、チヌはチヌなりに獲物の食べ応えを予測して、適切な噛みつきパワーで噛みついてくるイメージがあります。その際、幾度も『侮りバイト』『手抜きバイト』みたいなものを目にします(笑)

そしてそれは、チヌが猛烈なチェイスをして来たにも関わらず噛む力加減がショボかったりと、決して捕食の本気度合いと比例するものではない印象が強いです。

純粋なフィッシュイーターの口の構造は概ね2通り

クロダイは違いますが…

他の魚をメインに食べる肉食魚がいますよね。そういった魚は、他の魚を捕食しやすいように、進化の過程で口の構造が最適化されています。そして、その構造は大きく2つの系統に分けることが出来ます。

①鋭く長い歯を備え、大きく裂けた口を持つタイプ

タチウオやサワラ、カマスなんかが非常にわかりやすいですね。一撃で致命傷を与えたり、歯を獲物の体表深くに突き刺して、チュルリンと逃げられる事を防ぎ、確実に仕留めるタイプですね。この捕食方法においては、歯の鋭さが非常に重要なことは想像に難くありません。ラインを切ってしまう魚としても有名ですよね。

②口が前方に大きく伸び、獲物の周囲の水ごと飲み込むタイプ

スズキやハタが非常にわかりやすいですね(厳密に言えば、ハタは純粋な魚食性というより、無脊椎動物の捕食の割合も多いですが…)。口が大きく開き、かつ大きく前方に飛び出します。この口を瞬間的に展開し、獲物の周囲の水ごと囲ってしまう食べ方です。歯が大きすぎると吸い込みの妨げになるのでしょうか?鋭くはあるものの小さい歯が並んでいますよね。

ルアーフィッシングシーンにおいては、特にこれらの魚に対し「吸い込みバイト」といった表現が使われる場合が多いような気がします。

魚の口の構造はあまりにも多様

あまりにも多様過ぎるので、変な構造の魚を挙げればキリが無いのですが、ここでマイナーな魚を挙げても仕方がないので、身近な魚の中でも口の構造がちょっと変な魚を挙げてみます。

例①:コイ

コイを思い浮かべて、口に歯が並んでいるイメージを浮かべる人はいないと思います。実際の所、コイの顎に歯は一切ありません。いわゆる「吸い込みバイトor噛みつきバイト」の二者択一方式だと、吸い込み100%の魚のように思えます。しかしコイは、喉の奥に咽頭歯(いんとうし)という第二の顎のようなものを備えています。

赤い部分が咽頭歯です。

また、そこの上面部分は咽頭板(いんとうばん)と呼ばれる硬いパッドになっており、ここで上下左右から硬い物を噛み砕く事が出来ます。そのパワーは尋常ではありません。貝類を食べる上で発達したと考えられており、実際に十円玉がひしゃげるレベルのパワーがあります。

学研の図鑑にひん曲がった十円玉が乗ってたのを強く覚えています。

例②:ウツボ

ウツボは口を見た瞬間に「噛みつきバイト」を連想させる口をしていますよね。

ウツボは顎が二重構造のようになっており、一度正規の顎で噛みついた後、更に中の顎で噛みついて、これごと喉奥に引っ張り込むことが出来ます。どちらかといえば「引き込みバイト」です。

バケモン。

水族館なんかで見てると、丸々としたぶっといサバを脇腹から二つ折りにして、喉奥に引き込むほどのパワーがあります。

結局、いっぱい機構があって、それぞれ独立している

もはや冒頭で私なりの結論を述べたように、吸い込みの強さ咬合の強さは全く別の機構です。魚種によって、「両方強い」「どちらかが強い」「両方弱い」等があるように、ただただ別の要素でしかありません。さらに言えば、コイやウツボのように、魚は我々が想像しにくいような意外性のある機構をいっぱい持っています。捕食に使う幾多の機構のうち、吸い込みと噛みつきのどちらか一方しか使わない訳ではありません。

私一個人の意見としては、「吸い込みバイト」「噛みつきバイト」というワード自体に違和感を感じますし、この二つが対極の二項目であるという前提で議論が進んでいるのを見て、このようなちょっとした記事を書こうと思いました。

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