サイトチニングで一対一のアプローチをしまくると、個体の活性がまちまちであることに驚かされます。同じ魚とは思えないほど、個体によって活性の高低差を感じます。
本当にまちまち
同一の小さな群れの中で隣り合う、同じような外見・プロポーションの2個体をとっても、片方はガツガツチェイスをしてくる一方、片方は即座に見切ったり…、とにかく、個体ごとの活性はまちまちです。
これがなぜなのか、と言われれば、正直なところ、現在でもよくわかりません。ただ、なんとなく「こうだろうな」と予想できることはいくつかあります。
食欲の周期について
日本にお住まいの方であれば、多くの場合、朝・昼・夕の三食が一般的かと思います。そして、「今日は胃もたれして夕飯が食べられないな~」といった日や、「今日はものすごく働いたから、お腹がすいたな」といった変動が加わる感じですよね。
魚に満腹中枢は無い
狭義の『満腹中枢』は無いのですが、人間のような「お腹が減った時はいっぱい食べたくなる」「お腹がいっぱいな時は何も食べたくない」といった感覚は明確にあると、私は飼育経験を通じて感じます。ワイルド(現地で採集された野生個体)のアマゾンの魚なんかを飼っていた際、なんとなく餌の食いが落ちてきた時に、大抵は水質改善で食欲が復活するのですが…たまに何を試みてもダメな場合があります。そんなときに、丸一日絶食を挟むだけで、野生時代の空腹感を思い出したかのように、食欲が猛烈に復活する時があります。
マダイ等の養殖魚も、嗜好性が高い美味しい餌ほど、トータルで食べる量が多くなることもわかっています。
ここら辺は、人間の価値観に落とし込んでも共通する部分が多いんじゃないかなと思います。
魚と人間のエネルギーの使い方を比べると
人間の脳は、常に莫大なカロリーを消費しています。そして、脳は基本的にブドウ糖でしか動きません。そのため、我々は基本的に炭水化物(日本であればパンや白米、麺類等…)を取り、これらを分解してブドウ糖にして、脳のガソリンにする訳です。そして、仮に余剰に炭水化物を摂ると、それらは脂肪に組み替えられ、万が一のピンチに備えて、皮下脂肪等といった形で貯蔵されます。脂肪は即座にポンッとブドウ糖に出来る訳ではないのですが、糖類やタンパク質等と比べて、同一のカロリーであれば最も体積が小さいので、コンパクトに貯蔵出来る形態として、脂肪が選ばれています。
また、人間は恒温動物です。体温を維持するために、(猛暑の日以外は)たき火のように燃料をじわじわと燃やし続ける必要があります(夏バテする時期はまさに、食欲が湧きませんよね)。
これらの理由から、人間は他の生物達と比べた場合、割と燃費が悪く、より計画的にエネルギーを摂り続けないとすぐに餓死してしまいます。かといって、ヘビのように、自分より大きい獲物を丸呑みにして、長期間食い溜め出来る体の構造でもありません。そのために、脳は食欲を丁寧にコントロールし、空腹と満腹の周期を計画的に切り替える必要があります。
魚類はどうでしょうか。魚を飼育すると解るのですが、概ねほとんどの魚が、人間よりも飢餓に強いです。色々な魚種を飼うと、その中でも飢えに強い魚と、弱い魚と、どちらともいえない魚がいる事がわかります。
例えば、チニングをする上で馴染み深いボラは、結構飢えに弱いです。川の上からボラを見ると、常に何かをペロペロしてるじゃないですか…。また、砂に潜ったり、岩の隙間に入り込んだりもしないですよね。あの行動は水槽内でも同様で、常に動き続け、ロケット鉛筆のように、常に食べ続けて常に排泄をするコンセプトの生物であることがわかります。
エソはどうでしょうか。エソは極論、スーパーのマイワシをそのまま水槽に投げ入れる等…どでかい生エサを与えておけば、10日~2週間に一度程度の給餌でもなかなか痩せません。このように、基本的には待ち伏せを続けて、一発の捕食でバカデカいカロリーを得るギャンブラーコンセプトの魚は、飢えに強い傾向があります。
肝心のタイ科はどうかというと、どっちつかずな印象です…飢えに強い訳でも、弱い訳でもない、普通の魚ですね。
とはいえ、魚類は総合的に考えれば、やはり人間よりも燃費が良いです。大脳が発達していないので、猛烈にブドウ糖を消費するわけでもないですし、恒温動物でもないので、低水温期はじっとしていれば、ランニングコスト的な意味合いのカロリー消費はありません。
また、細かい部分の違いだと、人間は前述のように脂肪でエネルギーを貯蔵するのに対して、魚類はタンパク質で貯蔵します。ひたすらにマッチョになって、ガタイが良くなります。餌を大量に与えられて太っている金魚なんかをたまに目にしますが、あれは皮下脂肪がブクブクに付いているのではなく、筋肉を中心に大きな体になっています。
ということは
『朝・昼・夕』を人間のオーソドックスな食欲の周期と考えた場合、どんなに食生活に個人差があれど、そこら辺の人を二人つかまえてきて空腹度合いを聞いた場合、『さっき満腹になった人』と『忙しすぎて12時間何も食べていない人』ぐらいの差におさまるはずです。
しかし魚は『冷暗所に食糧を貯蔵しておく』ようなことは出来ません。個体のコンディションは「餌にありつけるかどうか」の運に完全に任せきりな部分があります。とはえ4~5日程度何も食べなくとも、人間のように見違えてダメになる様子もありません。であれば、『運が悪すぎて120時間何も食べられていない個体』と『数分前に餌にありつけた個体』が混在する状況があっても不思議ではありません。また、そもそも人間のように、空腹の周期が一日の中で何回も定期的に来る確証がありません。もっと長いスパン、一週間や二週間、それ以上の時間をかけて、じわじわと「お腹すいてきた…」「お腹いっぱい…」の波を繰り返している可能性もありますよね。しかし、個体ごとに、人間ではとても考えられないようなレベルの空腹状況の差があっても、我々のパっと見だとプロポーションにほとんど差が見られないはずです。これが、我々が釣りをした際に強く感じる『活性の強烈な個体差』だと、私は現在解釈しています。
また、もっと長期的なスパンで見た場合、「先月絶不調だった個体」や「先月ラッキーだった個体」といったような違いも生まれるでしょう。
とにかく、食欲を考えた場合、人間の時間感覚は、魚にはなかなか当てはめにくい所があります。数か月の長いスパンで考えると、合点が行く事が多いです。
しかし、サイトチニングにおいて、これらを全て超越する現象が…
それが、『ドシャローで餌を探している大型個体』の存在です。
もうその話聞き飽きたわ!って人も多いかもしれないですけど、聞いてください…
タイの仲間はみな性転換をします。最初は全員オスで、オスのまま大型化する一部の個体を除き、ほとんどの個体が、両性の時期を介してメスになっていく、といわれています。
精子を一個作るのに消費するカロリーと、卵子を一個作るのに消費するカロリーでは、後者の方が圧倒的に大きいです。そのため、卵を作ることは大型個体に任せて、小さい時期はローコストで作れる精子を全員で作る、という作戦を取っている…らしいです。

本来であれば、チヌの仲間に限らず、魚は大型になるほど人生(魚生?)経験を積んでいますので、外敵に襲われてヒヤッとした経験も多いはずです。警戒心も比例して高くなる…ように思えますが、少なくとも私のサイトチニングの経験からすると、大型個体は食欲に全てを塗りつぶされてしまっており、非常に釣りやすいです。
特に、ドシャローで餌を探している個体は、鳥類に襲われるリスクと食欲を天秤にかけても後者が勝っている証拠でもあります。こうした個体の釣りやすさは間違いないものがあり、私がサイトチニングで数釣りをする場合、こうした個体をひたすら探し回ります。もはや、あらゆる理屈を超越して、丁寧に通せばとにかく食ってくる、というイメージが強いです。
少なくとも、私のサイトチニングにおける経験では、幼い小型個体か、食欲に支配されている大型個体が最も釣りやすく、なんともいえない微妙なサイズが一番釣りにくいです(釣りにくいというか…それがチヌ本来の釣りにくさであり、例外的に、大型過ぎる個体と小型過ぎる個体はそれぞれ特有のイージーさを持っている、という表現の方が正しいかもしれません)。そして、微妙なサイズの個体を大きめと小さめに分けた場合、大きめの方が(強いて言うなら)やや釣りやすいかな、という印象です。
前編終了
この記事は「前編」「後編」と題していませんが、次に書く記事を見据えたときに「前編」となるような書き方をしてみました。後編にあたる次回は、『高活性個体と低活性個体の分布の濃淡』みたいなものを書こうかなと思っています。
書きました




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